マスタレスリークテスタとは、差圧式リークテスト(マスター比較方式)において、測定時に判定基準となる外部のマスタが不要で、代わりに内蔵したマスタタンクとマスターデータを基準としてワークとの差圧測定を行う方式の事です。マスタレスリークテスタは、外部にマスタを持たないため、内蔵マスタのデータ自体に外的要因による変動がなく、常に安定した測定が可能です。また、ワークの差圧特性を記憶させ(マスタデータ)、多様な容積のワークに対応しています。従来の外部マスタを使う差圧式リークテスタと比べて、測定時間を短縮させることができます。マスタレスリークテスタの測定回路は以下のようになっています(図1) 。
従来の差圧式リークテスタでは、以下の基本回路で、外部マスタ物とワークを差圧測定して漏れを検出していました(図2) 。実際の測定現場では、多品種のワークに対応するため、工場に複数台の外部マスタ物(良品)を設置していました(図3) 。しかし、外部にマスタを持つことは、表1に記す様々な問題の原因となり、計測精度、信頼性やコスト面で悪い影響をもたらすことがわかりました。マスタレスリークテスタは悪影響の原因である外部マスタを取り除き精度の安定性と信頼性向上をめざし開発された製品です。
外部マスタの問題点
実物のマスタを使う事で生じる問題点
・マスタの蓄熱、放熱特性の経時・経年変化
・マスタの機械的疲労、特性の変化
・マスタの保管と管理・コスト(定期交換、メンテナンス、スペース確保)
図1の回路では高圧の試験に対応できないため、図2のような従来の回路で高圧試験ができるように、マスタリング補正機能搭載の汎用型リークテスタとリニアフィッティング補正機能搭載のリークテスタが開発されました。
いずれの方式でもマスタデータを構築した後に通常測定を行います。製品と補正方式との対応は、以下の一覧をご参照ください。(表2)
マスタデータを利用してリークテストを行う方法として、「マスタリング測定」、「フィッティング測定」、「リニアフィッティング測定」の3種類の補正方式があげられます。
マスタリング測定とは、通常の測定より検出時間を長くして測定を行い、マスタデータを構築することです。検出された差圧データを直線成分(漏れによる差圧変動)と非直線成分(漏れ以外の環境要因)に分け、非直線成分を、マスタデータ(漏れ以外の差圧発生要素)として記憶します。これは圧縮熱の影響やシールゴムの影響、ワークの温度影響・気温変化など様々な要因が複合されたマスタデータとして、リークテストの判定基準となります。構築したマスタデータを利用して通常測定を行います(図4) 。通常測定では、差圧データから構築したマスタデータを差し引き、漏れの直線成分を演算します。
フィッティング測定とは、計算式によって理想的なマスタデータを構築する方式のことです。フィッティング測定では、実測データを測りながらマスタデータ構築のための演算を行います。計測データと数式(図5右式)が一致する定数を求めることで漏れ量を算出します。マスタリング測定との違いは、マスタデータ構築時に、振動などの外的影響による計測データの乱れを式により補正しながら、滑らかなマスタデータを作るという点です。例として、図6に測定中に振動があった場合のマスタリング測定とフィッティング測定の違いを示します。マスタリング測定の場合、振動があるとマスタデータにも影響を及ぼし乱れが生じるため、測定をやり直すことになります。一方、フィッティング測定では、振動があったとしても、マスタデータには影響を及ぼしません。この補正方式により、信頼性の高いマスタデータが得られます。
リニアフィッティング測定では、マスタデータと計測データの曲線を単位時間で区切り、それぞれの折れ線近似の傾きの差から漏れ量を算出します(図7) 。まず、漏れがないワークから得られる差圧データを一定時間に区切り、単位時間の傾きをマスタデータ式(2)として作成します。通常測定で、実測差圧(計測データ)の単位時間当たりの傾き式(1)を求め、式(3)でマスタデータとの傾きの差をとることで漏れ量を算出します。
マスタデータを利用してリークテストを行う方法として、「リニアフィッティング測定」、「フィッティング測定」、「マスタリング測定」の3種類の補正方式があげられます。
マスタデータの記憶、マスタワークの保管が容易、マスタデータの切り替えが簡単
一般的なマスター比較方式では、物理的なマスターを使用するため、プラス側(ワーク)とマイナス側(マスタ)の判定値があります。図8(a)では、良品母集団が室温などの影響でマイナス側へシフトすると、規格以上の漏れが発生していてもNG判定できず見逃すおそれがあることを示しています。一方、(b)ではマスタのデータ化により、マイナス側の判定値が不要となりマイナス側に漏れる心配がなく、プラス側の判定値のみとなっています。このため誤判定が生じにくく、従来よりシビアな判定精度になります。
環境変化に応じたマスタデータの更新により、最適な条件での測定が可能です。図9の上のグラフは、室温の変化(10~30 ℃までの約20 ℃)が測定結果に影響しドリフト(約0.85 mL/min~約1.05 mL/min)が生じている状態です。マスタデータを更新することにより、安定した測定結果を得ることができます。